「鋤」は人力で土を掘り起こす農具。
「犂」は牛馬に牽(ひ)かせて耕す農具。
(農具の説明)
所蔵する鋤と犂、両方を並べてみました。
左端の物が鋤(人力用)です。
鋤は、弥生時代の農耕遺跡からも見付かっており、日本では古くから使われていた農具です。
右側の3つが犂(牛馬耕用)です。
犂の畜力利用[牛馬耕・犂耕(りこう)]は、中国では紀元前の春秋戦国時代には行なわれていた様で、5~6世紀に朝鮮半島から日本に伝わったとされています。
当庵が所蔵する犂は、
・刃先とヘラが固定式のもの 1つ
・刃先とヘラが可変式のもの 2つ
です。
上記の写真は、刃先とヘラが固定された旧式の犂で、「ミノル号(号は異体字)」と刻印されています。
しかし、製作所等の記名が消えてしまい詳細については不明です。
可変式の2つの犂については、
写真のとおり、
片方の犂は、部品の一分が欠損しています。
2つの犂は、同じ可変式でも少し種類が違うため、各地で様々に研究・考案された様子がうかがえます。
可変式で欠損がある左側の犂は、
福岡市上土屋町
深見商店鋳造所 製
深見犂 國本号「深見式両用犂」
と記名を確認できます。
一方、完品の可変式犂は、記名が半分消えているため、
株式会社高北??製作所
高北犂 國富号「高北式双用犂」
としか確認出来ません。
(おわりに)
〈民俗学と庶民の文化史について〉
歴史を構成する文化には、
・一般庶民の生活文化史「基層文化」
・文化人の業績や美術品「表層文化」
があり、両者は
・都市と田舎
の様に交流・影響しあって民族固有の文明社会を築いています。
ドイツの民俗学者ハンス・ナウマン(1886~1951)は、
表層文化だけでは文化論が上滑りになる
と主張し、基層文化の大切さを訴えました。
一般庶民の生活道具など、美術的・骨董品の価値はないー。
しかし、大正から昭和に掛けて民芸運動をおこした思想家
柳宗悦(やなぎむねよし)
1889(明治22年)~
1961(昭和36年)
は、「用(よう)の美」を今日の民俗学の考え方に位置づけました。
貴族・武家の様な高貴な人達の道具だけが、文芸や芸術(歴史的・文化的価値)ではない。
一般庶民の生活史(一般文化の「用の美」)にこそ魅力がある
と主張しました。
正にそれは、基層文化の大切さや魅力を唱えたものです。
※ 当庵がテーマにしている
「昔を懐かしむ」という感情
は、機械文明に振り回された生活の中で人間性を取り戻し、先祖が遺(のこ)した日常の生活文化をも歴史的・文化的価値として継承する点において、大変 意義がある事だと考えています。
懐古庵主
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