遺(のこ)すべくして遺さず、気付けば何処(どこ)かへ立ち去ってしまった物。
1 はじめに
懐古庵が大切にしているのは、歴史文化の精神性です。
2021年9月27日のブログ
【鋤(すき)と犂(すき)】
の中で、
〈民俗学と庶民の文化史について〉
記事にしています。
歴史を構成する文化には、
・一般庶民の生活文化史「基層文化」
・文化人の業績や美術品「表層文化」
があり、両者は
・田舎と都市
の様に交流・影響しあって民族固有の文明社会を築いて来ました。
ドイツの民俗学者
ハンス・ナウマン
(1886~1951)
は、表層文化だけでは文化論が上滑りになる
と主張し、基層文化の重要性を訴えました。
今回、その基層文化の貴重な資料を幾つか紹介いたします。
2 基層文化の貴重な資料
(1)昔懐かしい雑巾(ぞうきん)
~昭和中頃まで
当然、雑巾は今でも有りますが、昔の雑巾は、古着を手縫いした粗雑なものでした。
今の様に工場で生産された規格品とは違い、母親の愛情が一杯つまった温もりの有る物でした。
(2)昔の手拭いと風呂敷
~昭和初期まで
【写真は、手拭い2枚の縫い合わせ】
時代劇に出てくる庶民の「ほっかむり」や「戦の鉢巻き」にも、この手拭いが登場します。
そして、その手拭いを2枚縫い合わせて風呂敷にしたりしました。
生地の感触から、明治・大正・昭和初期まで庶民が使った昔懐かしい「手拭い&風呂敷」の温もりが伝わってきます。
(3)職人や野良作業の服装
① 半纏(はんてん)
半纏は、襟が返されていおらず、そこに農協名や屋号などが記されていました。
写真では半纏の襟を返していますが、襟の下には山村地帯の農協名が記されています。
② 股引(ももひき)と脚絆(きゃはん)
昔の大工職人・雇い人・野良作業はこの格好でした。
③ 腹掛(はらが)け
腹掛けは作業着で、昔、火消し・商人(雇い人)・大工職人などが 着用しました。
写真には、腹掛けの下に脚絆も写っていますが、これらは当時の貴重な着物です。
腹掛けや股引(ももひき)は、今では、お祭り用のスタイルでしか見られなくなりました。
(4)昔の国旗:~昭和の戦前・戦後
昭和初期の古い国旗。
所々、虫食いが有ります。
現在の国旗よりも小さめで生地が薄く、戦争当時の物資の乏しさが伺えます。
3 おわりに
大正から昭和に掛けて民芸運動をおこした思想家
柳宗悦(やなぎむねよし)
(1889~1961)
は、「用(よう)の美」を今日の民俗学の考えに位置づけました。
「貴族・武家の様な高貴な人達の道具だけが、文芸や芸術(歴史的・文化的価値)ではない。
一般庶民の生活史・一般文化の【用の美】にこそ魅力がある。」
と主張しました。
正にそれは、基層文化の大切さや魅力を唱えたものです。
当庵がテーマにしている「昔を懐かしむ」という感情は、機械文明に振り回された生活の中で人間性を取り戻すのを目的にしています。
そして、先祖が遺(のこ)した日常の生活文化を、歴史的・文化的価値として継承する一助になれたら嬉しく思います。
懐古庵主
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